子供の時、上野駅前で傷痍軍人を見た話

日々のあれこれ

今日の文章は、小説投稿サイト エブリスタへ本日公開したエッセイがありまして、それに少しだけ手を加え、ブログにしました。

今日は終戦80年の、終戦記念日です。
どうしても今日、アップしたかった子供の時の記憶になります。


『子供の時、上野駅前で傷痍軍人を見た話』

人が死ねば、その人の持つ記憶も消えてしまう。
今年はその想いを強くする出来事がありました。
自分の年齢を思う時、焦りのようなものが湧いてくる……

書いておこう。
そう思い、私が子供の時に見たあるコトを綴っていこうと思います。

子供のとき私達姉妹にとって、東京におでかけするのは特別で、楽しいことだった。
両親に連れられて、上野に映画を観にいくのもそのひとつ。
すごくワクワクしたのを思い出す。

あの日はーーー
私は幼稚園児だったのか、あるいは小学校の低学年だったのか。
妹は私の2歳下。妹が幼稚園に入る前の年齢だとすると、映画館はちょっと早いかなと想像する。
そうすると、私が小学1年生か2年生で、妹が幼稚園児だったのかなと思う。

京成線上野駅と国鉄上野駅の間あたりを家族4人で歩いていたと思う。
上野のお山に映画館があったから。

日曜日。
さすが東京だから、人が多い。
人の波のあいだを、両親に連れられ私と妹も歩いた。
映画を観る。
おいしいものを食べる。
期待でいっぱいの子供の私。

その時だ。
私の目に飛び込んできたのはーーー

軍服、軍帽姿の男が2人〝何か〟している。
異様な雰囲気なのは、子供でもわかった。

一人は、片腕がなく。
もう一人は片足がない。
それぞれ、欠損部分には、粗末な棒がその代わりをしている。
棒は細く、古びた軍服の袖やズボンから突き出ているのがショックだった。

(子供だった私はじっと見てしまったと思う)

腕のない男は、喋っていた。
絞り出すような声。道行く人々に何かを訴えているようだった。

足のない男は、杖にすがりつき、からくり人形のような動きで茣蓙に片膝をついていく。すっかり体を折り曲げたあと、男はがっくりと頭を垂れた。
腕のない男の言葉に合わせ、背中を震わせている。
泣いているのだろうか?

古びた茣蓙の上は、そこだけが別世界のようだった。
私は気づいた。茣蓙の手前のところに、お金を投げ入れるための缶が置かれていることに。

子供の私が彼らを見た時間はどれほどだったのだろう?
おそらく、数秒間……
親は私に歩き続けるよう促しただろうから。

その時は、それがなんだったのかわかっていなかったと思う。

後で親に質問したのだろう。
男達が、戦争で腕や足をなくしてしまった人だと知った。

いつ頃だったか覚えていないが、このようなことを耳にした。
「戦後はああいう物乞いはたくさんいた」
とか……
「ああいうのは、偽物もまじっているんだ」
とか……

私が見た軍服、軍帽の男2人が本物の傷痍軍人だったのか、そうでなかったのかは確かめようがない。
しかし、万が一あの男達が偽物だったとしても、本物がたくさんいたから、偽物もいたのではないかと思う。

茣蓙に置かれた缶に、お金は入っていたのだろうか。
もし入っていたとしたら、どのくらいだったのだろうか。

あの2人の男はどんな想いで、自らの体を晒してあのようなことをしていたのだろうか……
あれだけで、食べていたのだろうか?
他に仕事もしていたのだろうか?
家族はいたのだろうか?

私は昭和43年(1968年)生まれ。
あの時、小学校1年生だったとしたら、昭和50年(1975年)に傷痍軍人を見たことになる。

終戦は昭和20年(1945年)である。
終戦から30年も経過して、男達は〝あれ〟をしていたわけだ。
終戦時に20歳だったとしたら、当時50歳になっていた筈だ。

いや、考えてみればーーー
戦争が終わったとしても、戦地で腕を失い足を失えば、「はい、終わり」とは決してならない。
戦死者の家族や友人、日本国土での空襲や飢えの犠牲者、その家族や友人と同様にーーー

私が子供の時見た傷痍軍人達は、〝戦争〟そのものだった。
50年たった今も、私のなかで度々フラッシュバックする。

物書きの端くれとしては、ああ、そうだったのかと今回気づいたことがある。
劇団時代に、杖をつく人物や車椅子の人物を登場させたり……
エブリスタに書いた『劇甘』に義足の女優を登場させたり……
もしかしたら、子供時代のあの体験が影響しているのかもしれないと思いあたった。

私の年齢はバレてしまった。
今後書く作品は、何歳の人が書いたものなのね、と思われてしまうのがちょっと本意ではないが……
今日のこの文章が、私より若い皆さんに、少しでも何か感じてもらえるなら、とても嬉しく思います。

平和を願ってーーー
令和7年(2025年)8月15日   菜々キキ


今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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